紫陽花が咲く頃の風は、湿っぽくて重たい空気を運んできます。ちょうど梅雨時にあたることから、雨が降っていることが多く、清々しい風ではありません。
そうしたことから、大抵の人は憂鬱な気分になるのではないでしょうか。
憂鬱な気分が天気のせいだけであれば良いのですが、心配事や解決するのが難しい課題などを抱えている時には、自分の内側からも沈み込んでしまう気持ちになってしまうと思います。
・会社の同僚と口論になって気まずいままになっている
・顧客から理不尽なクレームを受けて苦しんでいる
・自分が知らない間に家族が借金を重ねていた
・病院に行っても原因がわからず、身体の不調が改善されない
・燃え尽き症候群で引きこもりになってしまい孤独が深まっている
・・・日常生活や仕事の中でも、こうした問題は思わぬタイミングでやってきたりするものです。
そして、自分がその渦中にいる時には、なかなか出口が見えず、八方塞がりで押しつぶされそうになるものです。
それに、季節は梅雨、だったりします。
雨が降っていて、外に出るのも億劫で、余計に引きこもってしまいそうです。
このようなとき、いったいどうすれば良いのでしょうか。
鎌倉で、紫陽花を見た
先日、鎌倉に行って紫陽花を見てきました。
ちょうど見頃の時期で、赤や青、白いアジサイもありました。
紫陽花というのは、土壌が酸性だと青色の花になり、アルカリ性だと赤い花になるのが一般的です。中には品種として土壌のpHに左右されずに白い色の花をつけるものもあります。
品種改良が進んで花の形もいろいろなものがあり、よく目にするようなこんもりした手毬咲き(てまりざき)のものが多く見られますが、周辺に花があるガク紫陽花や、ふさのようにぶら下がって咲くノリウツギといった品種もあります。
花の形も4枚の花びら(実際はガクですが)があるものや、八重咲のもの、星の形をしたものなど、千差万別です。
なかなか見ていて楽しいものです。
私自身も鉢植えで紫陽花を育てています。ガクアジサイ系の「おはよう」という品種の紫陽花です。
紫陽花の手紙
毎年、紫陽花の頃になると思い出すことがあります。
それは、まだ私が20代の頃にいただいたお手紙です。
日付を見ると、6月12日となっており、まさに紫陽花がさかりの時期です。
「朝、出がけに雨が降っていたりするとユウウツな気分になるけど、青空のかわりにアジサイが明るく咲いているのを見つけると、心は晴れになります」
「アジサイって本当に空の色をしてるんですよネ。海を映した空の色とか、日の沈んだ直後の空の色とか、グラデーションになっているのもあるし…」
「くもりの日の多い季節に神様がくれた贈り物かな〜なんて、考えたりするのも楽しい…」
そう、紫陽花って、梅雨空の代わりに天が届けてくれた地上の空。
そう教えてくれたのが、旅先で出会った看護学生でした。
私はそれから、紫陽花が好きになり、だいぶ期間はあきましたが、ベランダの片隅で紫陽花の鉢植えを育てるようになりました。ずっと水をやり続けていれば、毎年のように梅雨時に、地上に空を届けてくれます。
グレーな世界に、明るい空
そして、この地上に降りてきた空の間を吹き抜ける風が、紫陽花風なのです。
紫陽花風は、湿気も多く、決して清々しい風ではないかもしれませんが、地上の空を通り抜けながら、私たちに地上の空の存在を知らせてくれます。
「青空のかわりにアジサイが明るく咲いているのを見つけると、心は晴れになります」
世界が灰色に覆われた梅雨時には、ちゃんと空を届けてくれる。そして、その空は、グレーの背景の中にあって、小さくても映えるのです。
グレーな世界に明るい空。
これが小さな希望になると思っています。
分厚い雲に覆われていたとしても、周りを見渡せば、内側のエネルギーを少し上げてくれる存在がある。
解決しなくても、光はさす
心配や不安、難しい問題が迫り来る恐怖。
こうしたものから解放されるためには、ネガティブな原因が取り除かれなくてはなりません。
原因が取り除かれない、問題が解決しない・・・
そうした時に、助けになるのが、紫陽花の風です。
確かに風に吹かれて解決するわけではありません。
もしそうだったら、ほとんどの人はハッピーなままです。
しかし、現実には、いろいろなことが起こります。
そんな時に吹くのが紫陽花風。
「青空のかわりにアジサイが明るく咲いているのを見つけると、心は晴れになります」
心が晴れになるとどうなるか。
八方塞がりの中に、光がさします。
問題は解決していないけれど、光がさすのです。
役に立たない精神論が、効く
精神論。そう、これは精神論です。
具体的なノウハウや対応策でありません。
だから「こんなの役に立たない」と感じる人も多いと思います。
でも・・・
実際に問題を解決するのは、こうした役に立たない精神論だったりします。
深い悩みが解決しない時に、それでも沈まずになんとかしようとするエネルギーが起き上がってくるのは、「地上に空があることを知った」という些細なことなのです。
こうした心の中の種火が、少しずつ炎を大きくし、そして、身体を動かすエンジンになります。
私自身も、ある問題が解決せずに、非常な恐怖の中で、この文章を書いています。
そして、この文章を書くにあたって、ずっと昔にいただいた紫陽花の手紙をパソコンの横に置いて、今まで書いてきたようなことを、こうして自分に言い聞かせているのです。
いただいたお手紙には、ちぎり絵で、ピンクとブルーの紫陽花があしらわれています。
今は夜中の屋内ですが、確かに青空と朝焼けが映っています。
ちょっとした種火が身体を、心を動かしているのです。
やがて、空は天に返る
梅雨が明けると、紫陽花は役割を終えたかのように、地上の空を天に返します。
そして、青く、大きな空が広がります。
日没が来る前に、紫陽花を探してみてください。
紫陽花が見つからなくても、30秒、風にあたるだけでもいい。
その風は紫陽花の花のあいだを通ってきた風。
わずかな種火が灯るのを祈ります。
そして、明日も生きていることを心から願っています。
